ベルデセルバ戦記でブログ

プレイステーションソフト「ベルデセルバ戦記~翼の勲章~」 にこだわるブログです。(略称【ベル戦ブログ】)

〜飛来編〜第一章 〜天から落ちてきた男〜 #5


 一方、ミサキと別れたカフィはゼクセルの呼び出しを受け、オデナウデ長官の執務室に出頭していた。ゼクセルは大抵の場合、執務室に詰めているからだ。
 執務室当直の兵士がカフィの到着をキビキビと告げた。
「アハデ中佐がいらっしゃいました。」
「御用でしょうか。ゼクセル大佐。」
 カフィが長官のデスクの前に来ると、ゼクセルがさっそく用件を切り出した。
「うむ。ミサキの事だが、近日中に飛空船のパイロットとして我が軍に入隊させることになる。そこで君の仕事だが、ミサキの乗る機体と砲手を手配しておいて欲しい。」
「入隊は決定事項なのですか!?」
 その口調からゼクセルは、カフィが既にこの件について知っていることに気づいた。
「ミサキから聞いていたか。」
「ミサキはまだ迷っています。」
「だが、奴には他に選択肢は無いはずだ。」
「そうでしょうか?」
 そこにオデナウデが低い声で言った。
「有ったとしても拒否は許さん!」
「そんな・・・!」
 ゼクセルが続けた。
「もと配給部の君なら言うまでも無く分かっている事だろうが、現在ナデス島は物資も足りないが人員も足りない。本国からの補給がままならない今は、手持ちの戦力でしのいでゆかねばならんのだ。君も見ただろう、ミサキの訓練の様子を。みるみる上達している。しかも一日中訓練を続けても平気な顔だ。優秀な人材を遊ばせておくわけにはいかない。」
 さらにオデナウデが言った。
「それにここの、ノイパスクの暮らしを失うことは文明人たるミサキにとっても避けたいはずだ。宇宙から来た文明人たるミサキには、ギダンやム連邦の野蛮人どもの生活は耐えられまい。」
『彼らはけして、野蛮人などではありません!』
 カフィはそう叫び出したいのを喉もとでこらえた。今ここで叫んだところでどうなるものでもない。オデナウデは言うまでもないが、ゼクセルほどの有能な男ですら、この星の原住民族に対するたちの悪い優越意識からは逃れがたいのだ。ただでさえカフィは強硬派に敵対する穏健派として目を付けられているらしいのに、この二人の前でそんな事をすればさらに立場を悪くするだけだろう。それでもカフィは、ミサキの処遇についてはもう少し猶予があってもいいのではと思った。
「ですが・・・。」
 ゼクセルは語気を強めて言った。
「カフィ中佐。この件について君の意見は求めていない。命令を復唱したまえ。」
「はっ。ミサキに対し、戦闘機と砲手の手配を致します。」
「うむ。機体と人員の選定については君に一任する。以上だ。下がりたまえ。」

『まいったわね。』
 執務室から下りるエレベーターの中でカフィは心の中でため息をついた。
 カフィはミサキの物怖じしない性格と、なんとなく人を引き寄せる人柄に期待していたのだった。外から来た者の視点からこの星の現状を見て、その愚かさを指摘して欲しかった。そして注目を集める民間人としてノイパスクの国内を回り、多くの人々の目を開かせて欲しかったのだ。
 とは言うもののナデス島が本国から隔絶された現状では、それもどだい無理な話ではあった。
 第一ミサキにはミサキの生き方がある。カフィがミサキに思いを託しカフィの望むような生き方を願うことは、ゼクセルのやり方とあまり変わらないのかもしれない。
 ともあれ、さし当たっては機体と人員の手配だった。ミサキが拒否する可能性もあるが、もし軍に入るのならできる限り便宜をはかってやらねばならない。幸いなことに人事権はこちらにある。砲手の人選は慎重にすべきだろう。強硬派の兵は避けたほうがいい。ミサキまでノイパスクの悪い習慣に染まってしまったら元も子もないからだ。
 カフィの頭の中で砲手の人選は、既に数人の候補に絞り込まれていた。