エレベーターを乗り継いで3階に出ると、この前同様、オデナウデ長官とゼクセルが机に向かっているのが見えた。違う事といえば、衛兵らしき兵士がエレベーターの脇に立っている事なのだが、ミサキはこの兵士に見覚えがあった。飛空船の操縦を教えてくれた教官だったのだ。
「おいあんた、いつもはここの勤務なのか?」
しかし、教官は返事をしなかった。
「おい。」
すると教官は、あさってのほうを向いて、ささやいた。
「勤務中の私語は厳禁だ!」
『まったく、これだから軍隊って奴は・・・。』
諦めてミサキはオデナウデの方に向かった。すぐにゼクセルがミサキに気づいた。
「ああ君か。ちょうどよかった。」
書類から目を離すとゼクセルは手すり越しにさきほどの衛兵に命令した。
「カフィ中佐を呼んでこい!」
「はっ!」
衛兵はあたふたとエレベーターに乗り込んだ。
「中佐が来るまで待っていてくれ。」
一方オデナウデは相変わらず眠そうな目でミサキをじろりとひとにらみすると、もう興味も失ったかのように視線を書類に戻した。
『やれやれ、何だかいやな予感がするぜ・・・』
しばらくしてカフィが現れた。
「お呼びですか。」
「彼を少尉として我が軍に迎えることになった。」
「なんだって?」
入隊の決意はあったが、ゼクセルがそれを聞きもしないで話を始めたのでミサキは驚いた。なんという強引さか。
ゼクセルはミサキの声を無視して続けた。
「ミサキ少尉のために船を用意してくれ。」
カフィは話に驚いた風もなくそれにこたえた。
「わかりました。少尉こちらに。」
カフィはミサキの返事を待たずにエレベーターに向かった。
「おいカフィ、ちょ、ちょっと・・・・・・」
あわててミサキもエレベーターに飛び込んだ。
1階に下りてエレベーターから出た時に、やっとカフィは口を開いた。
「いいの?このまま軍隊に入るつもり?」
カフィがうむを言わさずにミサキを下に連れてきたのは、ゼクセルたちの前ではこういう話をしたくなかったからだった。
「いきなり少尉とは驚いたな。あいつらどういうつもりだ?」
「ゼクセル大佐はあなたの体力と腕前を高く評価していたわ。」
「パイロットとして評価したからって、少尉は位が高過ぎるだろう。」
「普通、飛空船のパイロットは小隊の隊長がするものなの。だから最低でも少尉が必要なのよ。」
「ふーん・・・・・・ま、自分の船がもらえるのはうれしいんだけどね。」
「軍隊に入ると、自由に行動できなくなっちゃうわよ?」
ミサキのことを思っての最後の確認だったのだが、ミサキはカフィの心配などどこ吹く風だ。
「あとのことはそのときになってから考えるさ。」
「・・・・・・のんきね。まあいいわ。いらっしゃい。」
カフィはミサキを連れて空港に向かった。
第一章終り
(一章後書き→翌日へ)
(製作02.11.19:最終更新06.11.19)