ベルデセルバ戦記でブログ

プレイステーションソフト「ベルデセルバ戦記~翼の勲章~」 にこだわるブログです。(略称【ベル戦ブログ】)

〜飛来編〜第一章 〜天から落ちてきた男〜 #9


4.

 カフィと分かれてからも、ミサキは繁華街をぶらついていた。ノイパスク文明は長い時間をかけつつも衰退しつつある、そう言われると確かにそれらしい兆候があちこちに見えた。
 たとえば窓だ。チューブで結ばれた市街の壁には青いガラス窓が並び、すべての窓枠には立体的な装飾が施されている。その下部は膨らんでいて何かを入れられるようになっていた。さっきの店で初めて使用例を見たのだが、それは花びんや鉢植えの花を置くためのスペースだったのだ。町を色どる植物を窓からの光の下に置けるようにとの配慮なのだろう。この窓枠の鉢受けはナデス島の建築のほぼ全ての壁に施されていた。実用を重んずる軍事施設の中でさえだ。曲線で構成された窓枠なので、すべての壁にこれを取り付けるとなるとものすごい費用がかかったはずだ。さすがに文明国の面目躍如といった所だろう。
 だがその高い文化レベルの証拠も、今は見る影もなかった。ミサキが、窓枠に花があるのを見たのは、さっきまでカフィといた店が初めてだった。島内では他に見たことがない。花どころかゴミが入っていることさえある。繁華街を歩いていると特にそれが目立つ。一部ではそのゴミを苗床に雑草が生えているほどだ。
 なるほど確かにノイパスクは過去の遺産に寄りかかって生きている。それがミサキの受けた印象だった。
 そしてその印象は正しかった。実際、ノイパスクの人々の心から街路に花を飾る余裕が失われて久しい。窓枠を清掃しようという市民もおらず、もはや行政すらそれを管理していなかった。ナデス島だけでなくノイパスク全体がそうだったのだ。

『それはともかく、さしあたって今は軍に入るかどうかだ。』
 ミサキは家路をたどりながら思案した。
 軍に入ってしまえば、とりあえず食いっぱぐれはない。衣食住も保障される。その代わり自分の身は危険にさらされるが、今のナデス島はいつ敵の直接攻撃を受けてもおかしくない状況だ。どちらにしても危険な事に変わりはないだろう。船を操縦する任務についていれば、船を自由にできる時もあるはずだ。チャンスさえあれば軍隊を抜け出すことも可能だろう。
 だが、降りかかる火の粉とはいえ、ノイパスク軍に入るということは、ギダン人を殺すということだ。よそから来たミサキにとってはノイパスクもギダンも同じ人間である。オデナウデの言う通り、ノイパスクには拾ってもらった恩があるが、それだけでギダン人の命を奪っていいものだろうか。
 ミサキは辺境宇宙域を航行すると決めたとき、宇宙海賊などと戦うことも覚悟していた。もちろん攻撃は自衛のためにするのだが、その攻撃で死人が出てもそれはしかたがないと思っていた。悪いのは海賊の方だからだ。だが戦争は違う。相手が職業軍人だとしても基本的には普通の一般人なのだ。ミサキはそこに抵抗があった。
 しかし、軍人にならないとしたらどうすればいいのか?職業訓練のおかげで飛空船の操縦は出来るが、言ってしまえば出来るのはそれだけで、この星の事もノイパスクの事もなんにも知らない人間を雇ってくれる酔狂な民間人がこのナデス島にいるとは思えなかった。
 とにかく不景気なのだ。本国から離れ敵地の奥深くにあるためか、目に見えて物資が不足している。そこここに見える店の品揃えも寂しい。そもそも閉店している店のほうが多い。このあいだ行った地下のジャンク屋の店内もガランとしていた。店主は恨めしそうに言っていた。
『部屋をさがしたって無駄だよ。商品はとっくに軍に没収されちまったからな。おかげでジャンク屋も店じまいさ。逃げ出す金も船もありゃしない。遠い昔、ここは市民でにぎわう繁華街だったんだがな、戦争が始まってからすっかり軍人に占拠されちまった。・・・・・・住みづらくなったもんだ。』
 民間人でさえ生活にやっとなのだ。ミサキのようなよそ者を受け入れる余裕などないだろう。
『と、なると・・・やはり軍隊に入るしかないか・・・。』
 そういえばカフィが、
『私ね、少しあなたに期待しているの。今の状況を変えてくれるかもしれないってね。』
 と言っていたが、この戦争は400年以上も前から続く因縁の民族紛争なのだ。ミサキ一人が何かしたところで、どうにかなるものとも思えなかった。
『そうだな・・・。俺が参加したところでどうにかなる戦争でもないだろう・・・。逆に言えば俺が参加しなくてもギダン人は死んでいくし、ノイパスク人だって死ぬんだ・・・。せっかくお呼びがかかったんだし、軍に入るか・・・。』
 ひどく無責任な考え方だとは思ったが、今の自分には選択肢などほとんどないことをミサキは自覚したのだった。