「わたしたちの祖先は400年以上昔、パスクという星からやってきたの。新しい生活圏を求めてね。パスクはもう人が住める惑星ではなくなっていたから・・・。
パスク星から脱出して数十年が過ぎ、やっとたどり着いたのがこの惑星ベルデセルバだった。ところがベルデセルバには先住民がいたの。
そこで私達は浮遊島をつくり、そこに都市を造ることにしたの。空と地上に住み分けることで平和共存をはかったという所ね。これがノイパスク共和国の始まり。
どういう形であれ移住は成功し、パスク人たちは新たな安住の地を手に入れたかに見えた。
ところが、先住民族のベルデセルバ人は北と南の民族紛争が絶えず、時には無視できないほど戦火が広大することもあって・・・、そこで、始めは戦争を無くすために彼らを支配した。科学力の差は歴然としてたから、支配する事は簡単だったわ。
でも長い年月と慢心とともに私たちの科学力は衰え、反比例するように、ベルデセルバの科学力は進歩していたの。
始めの内は私達の方が有利だったけれども、彼らベルデセルバ側は南北が団結して戦った。
皮肉な話ね・・・。戦争を無くすために支配していたはずなのに、戦争の当事者に成り下がっていた。科学の進歩に溺れていた結果、いつの間にか同じレベルになってしまっていたのね・・・。」
カフィはそこで一度話を区切ってグラスを取り、軽く乾杯のしぐさをしてガムゼラ酒を口に含んだ。
一方ミサキは、なかば茫然として話を聞いていた。カフィは淡々と(酒が入って心もち陽気に)話してはいるがその話は、高度な科学力を持っていた文明人が惑星の支配者となる事で堕落し、今も衰退しつつあり、ミサキはそのただなかに居合わせているのだと言っているからだった。
「科学力が衰えなければこんな事にはならなかったんだろうけど・・・。この星は良質の鉱物資源が豊富でね、移住初期の頃はそれを他の星に輸出していたそうよ。でも鉱石が値崩れをおこしてしまってからは、宇宙船の行き来はなくなってしまったの。ノイパスクは多くの技術を輸入品に頼っていたからいつしか自分達では宇宙船も作れなくなっていたわ。それでこの星は、他の星とのつながりが全く無くなってしまったの。ここ百年の間よそからの訪問者は数えるほど。しかも事故で落ちてくる人ばかりなのよ。どういうわけかね。」
カフィのその疑問にはミサキが答えた。
「この星は他の有人惑星からかなり離れているからな。中央ではこの星は存在すら知られていないよ。途中に安全な恒星はないから小型船でここに来るには危険な航路しかない。鉱石を運ぶような大質量の船でなきゃ安全な航海はできないんだ。人の行き来すらなくなったのはそのせいだろう。」
「そういうこと・・・。もうノイパスクではそういった知識も失われてしまったわ。」
かなり人口があるにもかかわらず、自分の宇宙船にベルデセルバ星のデータが無かった理由をミサキはやっと理解した。交流があったのはずいぶん昔のようだ。そのときでさえ、あまりにも辺境にあるために中央政府は感知せず、ノイパスク人も中央の恩恵が得られそうもないから税金を払う意味を見出さず、行政登録などしなかったのだろう。だから、そんな昔にしか交流のなかった非公式星のデータまではミサキの宇宙船には搭載されなかったのだ。
「それで、今に至るというわけか。」
「ええ。勝ち目がないと見て、数年前に平和条約の締結交渉が進められた。結果、ム連邦とは条約締結に成功したけど、ギダンとは締結失敗。
もとはと言えば、この星の先住民がいたのに住み着いた私たちがいけないのよ。」
話が終わったと見たミサキは、最後の自嘲的なカフィの口調に救われて、明るくあいづちを打った。
「なるほど。今のノイパスクの状況が少し分かったよ。」
しかしカフィは伏し目がちに言った。
「ノイパスク人は基本的にこの星の人たちを嫌悪しているわ。ム連邦との和平も一時的なもので、単純に彼らを利用しているつもりなんでしょうね。そんなことじゃいつまでたっても終わらないのに・・・・・・。」
グラスの酒を飲み干すと、カフィはイスから立ち上がった。
「私ね、少しあなたに期待しているの。今の状況を変えてくれるかもしれないってね。よく考えて答えを出して。返事は直接長官にするといいわ。」
「ああ、わかった。」
ミサキも立ち上がり、それで酒宴はお開きとなった。ちなみに酒代はカフィが払った。