ベルデセルバ戦記でブログ

プレイステーションソフト「ベルデセルバ戦記~翼の勲章~」 にこだわるブログです。(略称【ベル戦ブログ】)

〜飛来編〜序章#3

「冗談じゃねえ。」
 再びミサキの指が忙しく動き出す。
「前方左舷側面噴射30秒!出力120%!」
 スラスターの青白い噴射が、船の頭を惑星の引力から引きはがす。
「メインエンジン点火!」
 ロケットエンジンが最大出力を放出し始めた。船尾のイオン噴射口が白熱し、船の後ろにオレンジ色の尾を引く。
 力強い加速とともに船は惑星の重力を振り切ってゆく。何の問題もない。この加速を維持すれば惑星につかまる事などないだろう。
 その時船尾で大規模な爆発が発生した。
「のわっ!?」
 船体が一瞬急激に加速したため、身を乗り出してモニターをにらんでいたミサキは投げ飛ばされるようにシートの背もたれに押し付けられた。
「ど、どうしたっ?」
 目を回しかけて顔をしかめながらミサキは聞いた。
”第3エンジン大破。推力60%ダウン。惑星の引力につかまりました。”
”予想突入時刻60秒後。乗員の安全は保証できません。”
”乗員は脱出カプセルに避難してください。意思無き時は強制排除します。”
 信じられない報告が次々と飛び込んでくる。
「まっ待ってくれ!こんなところで降りるなんて・・・!解除っ、解除だ!」
 脱出カプセルは惑星上への突入を前提としている。生活可能な惑星上での事故の際の手続きとしては順当なものだ。
 とはいえ、人工衛星もないのでは惑星上からの通信は難しい。次の船が数十年に一度の確率でしか通らないとしても、生命維持装置が無事なら船で宇宙空間を漂流している方がまだましだった。
「おいおい、ちょっと待て。解除しろって!」
”強制イジェクト。強制イジェクト。”
 ミサキは自動排出プログラムが進行中であることを表示しているパネルを操作しようと必死で試みたが不運なことにそのパネルは先程ミサキ自身が叩き割ったものであり(自業自得とも言う)、ミサキの入力を一切受け付けなかった。もっとも、パネルが無事でも解除は出来ないのだが。
”セーフティロック解除。”
 そうこうしている内に座っているシートの安全確保バーがおりて来てミサキの上半身を固定した。
「おっおい!」
 ミサキの叫びは無視され、シートごと床の上を滑ってコックピットから引っ張り出される。
「解除ーっ!解除ーっ!待てー!うあー!
”カプセル射出30秒前”
 非常用のはしごとしても使われるレールを伝わって、ミサキを乗せたシートは船体の下部にある一人乗りの脱出カプセルに向かって下降する。
”20秒前”
 ミサキを乱暴にカプセルに下ろすと、ハッチが閉められた。
「ぐうっ。」
”10秒前、9、8、7、6、”
 専用のマニュピレーター(ロボットハンド)によってカプセルが船体からせり出してゆく。
”5、4、3、”
 カプセルの出口の扉にはめ込まれた耐熱ガラスから、銀色の船体と眼下の緑の星の一部が見えていた。
”2、1、”
 もはや無人となった船内にコンピューターのカウントダウンの音声だけが響く。
”0”
 切り離されたカプセルの小型ロケットエンジンが点火。ミサキの全身に数Gの重圧をかけながら、カプセルは船の前方へと自動操縦で飛んでゆく。大気圏で燃え尽きないように適切な角度で突入するため、また爆発によって分解を始めた船の破片を避けるためだ。
 断末魔の黒煙を噴き出す船を置き去りにして、円錐形の脱出カプセルは緑色に輝く惑星の地平線の向こうへと滑り込んでいった。