無事に大気圏突入を終え、カプセルはパラシュートを開いた。大気との摩擦熱で真っ赤に燃えた表面が急速に冷えてゆく。
もし今ミサキが外を見ることが出来たなら、十数分前まで自分の乗っていた船が赤い火の玉となって頭上の空を飛び去ってゆくのを目にするはずだ。
だがたとえ見ることができるとしても、ミサキは見なかっただろう。もはやどうにもならない過去よりもこの先のことを心配すべきだったからだ。
幸運にも落下地点は惑星の海で、着地の衝撃は小さいだろう。更に幸運な事にすぐ近くに陸地が見えた。だが、幸運はそこで尽きるかもしれない。
食べる物はどうする?住む所は?危険な猛獣はいないか?何のデータもない星に降り立つ不安は他に例えようがなかった。
だが。
この星は無人の星ではなかった。惑星ベルデセルバ。住民もエイリアンなどではなく地球人類だ。
そして今はこうして飛空船を操縦している。とりあえず住む所も、衣食も確保できた。
だが、それでも不安が無い訳ではない。
長い間他の宙域との接触が無かったせいか、この星の文明レベルはひどく退化している。空を飛ぶものといえばこのプロペラで動く飛空船だけ。ジェット機すら無いのだ。宇宙船どころの話ではなかった。
しかもこの星では戦争が勃発している。ミサキを拾ってくれた民族はまさにその当事者らしい。この状況下では誰も一人の異星人を宇宙に帰すために力を割いてはくれそうも無かった。
では、どうするのか?
決まっている。選択肢など無いのだ。
『この星からは出られない。ここで暮らしてゆくしかないんだ・・・。』
だがミサキは、その言葉を口にすることをやめ、それについて考えることもやめた。
『どうにもならない事を考えたってしょうがねぇ。その場その場でベストを尽くすだけだ!』
今はこの、飛空船の操縦をマスターすることだけに集中しよう。そう心に決めたミサキは海岸線を離れ、沖のほうへ船首を向けた。
遠出は終りだ。ミサキは島への帰路の間も、燃料が許す限り操縦の練習をするつもりだった。
序章終り
(最終更新03.07.14)
(※このお話は風野妖一郎が02.10.24に「無着陸飛行船」で発表しました。)