ベルデセルバ戦記でブログ

プレイステーションソフト「ベルデセルバ戦記~翼の勲章~」 にこだわるブログです。(略称【ベル戦ブログ】)

〜飛来編〜序章#2

 数ヶ月前のことだ。

 辺境の太陽系に一隻の小型宇宙船が現れた。それはこの星系には過去数年なかったことだった。
 歪空航法(ワープ)を終えて実体空間に出現したその宇宙船は傷ついていた。銀色の船体には裂け目が走り小爆発と激しい漏電が発生、エンジンにもその影響が出ており、早く適切な処置を施さなければ船そのものの爆発もありうる、危険な状態だった。
 船内には警報が鳴り響き、操縦室では数々のパネルが非常事態のレッドサインを繰り返し表示しいていた。
「うるせぇ!一度聞けば分かるんだよっ!」
 ミサキは力任せにレッドサインの一つを叩いた。パネルはピシッという音を立てて割れた。タッチパネルは繊細なのだ。哀れなパネルはそれでもけなげに非常事態を表示し続けている。
 船のコンピューターはミサキの行動から警報はもはや不必要と判断しアラーム音を止めた。ミサキが状況を把握した以上、一人しか乗員のいない船内にこれ以上の警報は無意味だからだ。けしてミサキがパネルを割ったから止まったのではない。
 今ミサキは気密服を着てシートに座り両手でコンソールを操作している。先程の乱暴な行動からは想像もつかない細やかさと的確さで、破損した船体の応急処置をコンピューターに指示しながら次の歪空航法の計算を進めてゆく。
 ミサキがこの星系を訪れたのは全くの偶然からだった。
 歪空航法は船のワープ装置を使用するのだが、物理の法則のため大きな質量を持った物体を足がかりにしなければ何光年もの距離を飛ぶことはできない。船が小さくなり、ワープ装置が小さければ小さいほど大質量の天体が必要だった。
 一方、ブラックホール中性子星のような天体は、質量が大きく長距離の跳躍を可能にするのはいいが近寄ると非常に危険である。つまりこの時代の科学技術では小型船は、巨大すぎる星しかなかったり、太陽型の恒星があっても数十光年の間隔でしか存在しない宇宙域を安全に航海することは出来ないのだ。そのため「安全で確実な航路」となると、太陽型恒星が数光年間隔で密集している宙域に限定されることになる。
 人類が銀河に進出し始めて約千年。半径数百光年の範囲に広がったとはいえ、その真ん中にさえ数十年に一度しか船が通らない太陽系がまだかなりあった。
 ミサキが今いる太陽系も、周りにまともな星がなく孤立していた。
 このような中央との連絡が非常に悪い宙域には探検家か宇宙海賊ぐらいしか住み着く者はいなかった。危険が多く、補給や修理もできず、ヒッチハイクしようにも次に誰かが通りかかるのが何十年も先になるような航路を、普通は誰も選ばない。
 もちろん例外はある。学術的な探査船、緊急の用事で近道をしなければならない者、そして宇宙に冒険を求め、または権力から逃れるためにあえて危険を冒す者。そのような者たちは自分の技術と運だけを頼りに危険な宙域に乗り出すのだ。
 だが数十年に一度しか人の通らぬ道というものは、旅人の足を滑らせつまづかせ、事故を起こさせあげくの果てに、迷子にさせるものである。

 今のミサキの状況がまさにそれだった。
 無理な航海が船体を痛めたため航行可能なルートが限られ、このような辺境に来てしまっていた。
 だがまだ希望はあった。危なっかしいがエンジンの出力はまだある。あと数回のワープに耐えれば人の住む惑星にたどり着くはずだった。
 次の航路の計算結果を見たミサキは安堵のため息をついた。大丈夫、十分余裕がある。
 その時、再び警報が鳴り響いた。コンピューターが機械的な音声で報告する。
"未知の惑星に接近中。あと300秒で惑星の引力圏につかまります。”
 そんなバカな。惑星の引力だって計算に入れてあるはずだ。エンジンの不調のせいで軌道が変わってしまったのだろうか?

「未知の惑星だと?データは!データはないのか!?」
 船窓から見える惑星には白い雲があり、青い海があり、陸地は濃い緑に覆われていた。大昔の無人式惑星改造船プロジェクトの成功例かもしれないが、人がいる可能性もある!
 だが、コンピュータの返事はそっけない。
”データは無し。あと240秒で引力圏。”
 考えてみれば人がいるのならば衛星軌道上か、この惑星の衛星に宇宙ステーションか人工衛星の一つもあるはずだ。ところが惑星に接近しても今に至るまで通信一つ入ってきてはいない。やはり無人星なのだ。