ベルデセルバ戦記でブログ

プレイステーションソフト「ベルデセルバ戦記~翼の勲章~」 にこだわるブログです。(略称【ベル戦ブログ】)

〜飛来編〜第一章 〜天から落ちてきた男〜 #7


3.

 ミサキは老人の講義を受け続けていたが、そろそろ何がなんだか分からなくなり始めていた。最初に聞いた地理情報を頭の中で整理していると、老人が聞いてきた。
「まだ、何かわしに聞きたいことがあるのか?」
「うーん。」
 ミサキが思案していると老人は勝手にこの星の勢力分布についての講義を始めた。
「この星ではム連邦、ギダン、ノイパスクの三大国が長年領土をめぐって争ってきた。現在、クナ共和国はム連邦の所属だが、オルダナズピ国は永世中立国としてどの勢力にも属さずにいる。今わが国にとって一番の脅威が強力な力を持つギダン王国じゃ。彼らからの侵略から国を守るため、我がノイパスクは最近、ム連邦との同盟を結んだばかりじゃ。」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。頭がこんがらがってきた。」
「じゃあ今日はこの辺にしておくか、うむ。また来なさい。」
「ああ、そうさせてもらうよ。今日はありがとう。」
 老人の家をほうほうの体で逃げ出したミサキは、繁華街へ足を伸ばした。カフィが支給してくれていた最低限の生活費も、切り詰めれば飛行訓練の後に一杯引っ掛ける程度の余裕はあったのだ。
 この先の事をじっくりと考えたかった。老人の言っていた話からすると、状況はミサキが想像していた以上に悪いらしいからだ。
 まず、今いるナデス島は非常に危険だ。しかし、ここを出るとなるとギダン国に亡命するしかないが、そこでうまくやっていける保障もない。どうやらこの星ではノイパスク共和国が一番文明的な国のようだが、それでもいきなり軍隊に入らされそうなのだ。野蛮な(らしい)ギダンが異星人のミサキを今以上の待遇で受け入れてくれるとは考えにくかった。
 そもそも亡命するとなるとノイパスクの飛空船に乗っていかなければならない訳だが、ギダンにとっては戦争中の敵国の飛空船だから有無を言わさず撃墜することだって充分ありうる。まだこの星での白旗の揚げ方すらミサキは知らないのだ。
 ミサキはいつもの居酒屋ではなく、落ち着いた雰囲気の店に入ることにした。

 カフィは行きつけの店のテーブル席に座って、しばらくグラスを片手に何も考えない時間を過ごしていた。静かな店内はカフィのリラックスタイムにぴったりの場所だった。ところがその日に限って、店の入口付近が騒々しかった。
「あーん?なんだよおまえ!とっととうせろ!」
「じゃあ・・・そっちに座っていいか?」
「俺はひとりで酒が飲みたいんだ。ほっといてくれ。」
「別に話をしたい訳じゃあ・・・」
『ミサキじゃないの!』
 騒ぎの原因はミサキだった。この店はあまり社交的でない人々が多いので、特に異邦人のミサキは煙たがられているのだった。
 ミサキはカフィには気付かず、テーブル席を追われたので仕方なしにカウンター席に座った。
 ミサキはカウンターの向こうでグラスを磨いているマスターを呼んだが、
「・・・・・・・・・」
 マスターは黙ってグラスを磨き続けた。
「おい、なにか飲ませてくれ。」
「・・・・・・・・・」
「おい!」
「・・・・・・よそものが!ほらよ!」
 あからさまに嫌な顔をしたマスターは、店で一番度数の強い安物の蒸留酒をほとんど薄めないでカットグラスに注ぎ、乱暴にミサキの前においた。酒が2・3滴ミサキの服に飛んだ。
「まったく!客を客とも思っちゃいねぇ。」
 ミサキは小さなグラスの中身を、のどを鳴らしながら一気にあおった。
 マスターは更にしかめっ面になったが、何も言わなかった。
「うえ!こりゃきつい酒だな。みんなこんなのを飲んでるのか?」
 軽く店内を見回そうとしたミサキは、後ろのテーブルで自分のほうを見ている女性に気がついた。誰かに似ている・・・?
「カフィじゃないか。こんなところにいたのか。」
 ミサキはカウンターを下り、カフィの向かいに座った。カフィの許しも得ないずうずうしい行為だったが、ミサキとは色々話しておきたかったのでカフィは黙って迎えた。
 カフィが酒を勧めると、ミサキは断った。
「あんまりきついのは飲めないんだ。」
「だいじょうぶよ。これはガムゼラ酒だから。」
 カフィがついでくれた酒に口をつけると、それは甘くて飲み易かった。
 しばらくしてカフィがたずねた。
「結論は出たの?」
「いや。あんたはどう思う?」
「それはあなたが決めることよ。」
 カフィは自分の気持ちを抑え、正論を言うだけにとどめた。
「おれはまだ、この星のことは全然わからないんだぜ・・・じいさんにいろいろ聞いたけどチンプンカンプンだ。簡単に結論なんて出せないよ。」
「そうねえ・・・・・・じゃあこの星で戦争している理由を説明してあげるわ。」
 カフィはグラスを傾けて唇を潤してから語りだした。