ベルデセルバ戦記でブログ

プレイステーションソフト「ベルデセルバ戦記~翼の勲章~」 にこだわるブログです。(略称【ベル戦ブログ】)

〜飛来編〜第一章 〜天から落ちてきた男〜 #2


 この星に落ちてきたミサキを保護したのは、ノイパスクという国の軍隊だった。ナデス島の湖に落下したカプセルから這い出したミサキはすぐさま捕らえられた。保護というよりは捕虜といった扱いだった。そろいの制服・武器と統率された動きからすぐ軍隊だと分かった。軍人という人種はどこも同じである。
 この星の文明レベルが退化している事はすぐ分かった。兵士達の服装や装備、連行され放り込まれた留置場の設備などが宇宙時代以前のレベルだったからだ。
 宇宙に帰れるかもしれないというミサキのはかない希望はみるみるしぼんでいった。
 また軍服も、とても近代的と言えるものではなかった。一般の兵士もそうだが、特に士官のものは肩がフレアショルダーになっており、背中には両肩からマントのような細長い布がひざの高さまで下がっているが、ふた筋の布地が肩から別々に下げられておりマントの役には立ちそうもなかった。服全体には派手な縦縞が入っていて、デザインこそ違えナポレオン時代のようなセンスが感じられる。どう見ても機能よりデザイン優先だ。これもミサキを更に失望させた。ドラマなどでは、前近代的な星に迷い込んだ異星人はまともな扱いをされないのが相場だったからだ。
 尋問が始まった。
 ノイパスクの言葉は、訛りがひどかったがミサキが使っている銀河標準語によく似ていて意思の疎通は意外と楽だった。これはありがたかった。どうやら数百年前は同じだった言語がこの星で独自の変化をしたものらしい。
 尋問の内容から、現在この集団は他の集団と軍事的に対立しているのだということがうかがい知れた。国家名らしい聞きなれない固有名詞に所属しているのかどうか、どのような目的でこの島に来たのか、高圧的な態度でしつこく聞かれたからだ。偶然落ちてきたのだとさんざん怒鳴って説明してもらちが開かなかった。
 数日後、ゼクセルという上級士官らしき軍人が現れた。この男の軍服も薄紫地に紺の縦縞が入っている。
「君が宇宙から来た男か。」
 切れ長の瞳と、への字口、肉が削げ落ちたため張り出した頬骨ともあいまって、一見神経質そうな近寄りがたい印象を受けるが、口から発せられる力強く理知的な声にミサキは希望を持った。もしかしたら話が分かる男かもしれない。
「ミサキだ。」
 殺風景な部屋の中央に置かれた丸いテーブルに、ゼクセルはミサキと向かい合うように座った。
「ミサキ少尉。この星へは何をしに来た?」
「なんだその少尉ってのは?俺は軍人じゃないぜ。」
「見え透いた嘘はやめたまえ。君の持ち物に名前がプリントされていたんだよ。ソニー少尉。君は軍人だ。」
「・・・それで尋問が厳しかったのか!違う!『ソニー少尉』ってのは商品のブランド名だ!商標なんだよっ!俺とは関係ない!」
「・・・では、そういうことにしておこうか。で、この星に来た目的は?」
「通りかかったところを事故で不時着したんだ。船はもう無い。」
 ミサキはここ数日叫んでいた事を辛抱強く繰り返した。
「帰る当てはあるのかね?」
「無いね。あんた達が宇宙船を持っているなら貸して欲しいんだが。」
「残念だが、今ベルデセルバには宇宙へ出る技術は無い。」
 やはりそうか・・・。予想していた事だったが、はっきりと告げられるとショックだった。
ベルデセルバってのがこの惑星の名前なのか?」
「そうだ。ところで宇宙船の他の乗員はどうなった?」
「いや、船には俺一人だったから、この星に落ちてきたのも俺だけだ。」
「すると職業はパイロットなのだな。」
「まあ、一人しかいないから、パイロットでもあり航法士でもありコックでもありといった所だな。」
「ふむ。」
 ゼクセルは少しの間黙り込んだ。沈黙にミサキがしびれを切らした頃、再びゼクセルが口を開いた。
「よかろう。ミサキ、君を釈放しよう。」
「本当か!?」
「ああ。我が軍には無為徒食の者を養う余裕などないからな。」
「勝手に捕まえておいてよく言うよ。」
 ミサキの憤慨を無視してゼクセルは話を続けた
「ところで、職業訓練を受けたまえ。君も手に職がなければ生きてゆけまい。こちらとしても食い詰めて強盗でもされたら困るからな。」
「強盗なんてするもんか。で?、どんな仕事を教えてくれるんだ?」
「仕事よりも、応用のきく”技術”の方が良いだろう。飛空船の操縦を覚えたまえ。」
「飛行船?」
「飛空船だ。論より証拠。見れば理解できる。おい、そこの獄卒。カフィ中佐を空港に呼べ。それから衛兵、私と来い。行くぞミサキ。」
「お、おいゼクセル。どこへ行くんだ?」

 そうして連れてこられたのが空港だった。飛空船が宙に浮いている様や、ゆったりと空を飛んでいる様子をミサキは呆然として眺めた。更に、高地だろうとは思っていたここが空中の島だと分かった時には肝をつぶした。たしかに重力制御技術を使えば理論上は可能だが、これほど大規模な浮遊物は見たことも聞いた事もなかったのだ。
「これは・・・凄いな。」
「そうだろう。ノイパスクは偉大な民族なのだ。」
 ミサキの素直な感想を聞いたゼクセルは力強くそう言った。