ベルデセルバ戦記でブログ

プレイステーションソフト「ベルデセルバ戦記~翼の勲章~」 にこだわるブログです。(略称【ベル戦ブログ】)

〜飛来編〜序章#1

 一機の人工物が雲間をぬけ、青空に飛び込んでゆく。
 まるでヒバリが鷹のいない空を楽しむかの様に、軽やかに舞い踊る。
 上昇、下降、旋回、エアブレーキ。エンジンの回転数を様々に変えてはまた繰り返す。
 どこか目的地へ向かっているのではなく、飛行自体が目的のようだった。

 それは飛行機ではなかった。4つのプロペラと、上下に小さな翼がついていたが、大きな翼で風を切ることで揚力を得る飛行機にしては、翼が小さすぎ、形もとても揚力を生み出しそうには思えない。
 そのうち、それはエンジンを止めてしまった。空気抵抗に任せてどんどん減速してゆく。飛行機ならば失速すれば墜落するが・・・、それは空中で静止した。
 飛空船なのだ。
 その空中に静止できるという性質は飛行船(ツェッペリン型のような、巨大な横長の風船に機関部・居住区がぶら下がるような乗物)と似ているが、形はまったく違っていた。飛行船が風船ならば、飛空船とは船のようなものだ。大きさは格段に小さく、浮力を得るための風船のような装置も見当たらず船内の空間はすべて人や機材を乗せる空間として使えるようだった。まさに空を飛ぶ船である。

 その飛空船は、船体は非常に軽い木材で出来ており、上に一対、下に二対、小さな翼がついていた。両舷側に一発づつ、下前翼の両端にも一発ずつ、合計4発の発動機(エンジン)があり、それが機体の後ろでプロペラを回すことで、風を切って飛ぶことも、高い旋回性能も得ているようだった。
 飛空船は再び速度を上げ、飛んでゆく。
 詰め込めば十数人は乗れそうなその船には、しかし、今は二人しか乗っていなかった。見晴らしは良いが吹きさらしの操縦席に、緑のジャケットに身を包んだ黒髪の青年がいる。
 名前はミサキ。名字なのかファーストネームなのかは分からない。誰も知らないのだ。彼はどちらも持っているはずなのだが名前を聞かれると、「ミサキ」としか答えない。どういうつもりか教える気がない様だった。
 もう一人は飛空船の操縦を教える教官だが、ミサキが一人で練習メニューをどんどんこなしてゆくのでサボって船内で昼寝している。
 ミサキはゴーグルを外し、心地よさに軽くため息をついた。まったく未知の乗り物であった飛空船の操縦にもだいぶ慣れ機体を手足のように操れるようになると、自由に大空を舞う快感をかみしめる余裕が出てくる。眼下の平原には大きな川が曲がりくねり、森と川の間に農地が広がっている。牧歌的な風景だ。
 ミサキの瞳の色は淡く緑色がかった白灰色だった。灰色は地球で言えば(そう!ここは地球ではないのだ!)ヨーロッパ地方の人種のものだが、緑色は中央アジアの遺伝子の影響を思わせる。
 その白緑色の視線がふと、操縦席の計器の一つに注がれた。タコメーター(エンジンの回転数計)の針の示す値が低すぎる。
 表示板のカバーガラスを指先で二三度そっとこづいてやる。デリケートな部品なのだ。計器はすぐに復活し、針はエンジンの回転数が最高値であることを表示し始めた。ミサキは正常に戻った計器を見てホッとして、そして数ヶ月前にも似たような事をしたのを思い出し、表情を硬くした。
 それは人生の岐路を迎えた瞬間だった。その時も彼は船の中で表示板を叩いていた。ただしここよりも何千倍も高い場所で。